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JPAD研究

「日本人2型糖尿病患者における低用量アスピリン療法の心血管疾患一次予防」に関する臨床研究

糖尿病は心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患発症の重要な危険因子であり一次予防法として、従来から低用量アスピリン療法が推奨されていましたが、最近ではその効果に疑問が持たれていました。

我々は、国立循環器病研究センター 小川久雄理事長、兵庫医科大学 森本剛教授、熊本大学 副島弘文准教授、日本全国163施設の実地医家の先生方と協力して、2002年から「日本人2型糖尿病患者における低用量アスピリン療法の心血管疾患一次予防」に関する臨床研究(JPAD研究)を開始しました。

4.4年の観察期間において、低用量アスピリン療法による心血管疾患予防効果は認められず、その結果を2008年に「JAMA」に報告しました。

そして、より長期間にわたる追跡調査により、糖尿病患者における低用量アスピリン療法の心血管疾患予防効果を検証することを目的として、JPAD研究に参加した2539名の日本人2型糖尿病患者を対象に、JPAD研究終了後8年間の追跡調査(JPAD2研究)を行いました。

この研究では、低用量アスピリン療法は心血管疾患を予防する効果が認められず、むしろ消化管出血の危険性が増加することが示され、2016年に「Circulation」に掲載されました(右図1)。

心血管疾患既往の無い日本人2型糖尿病患者において低用量アスピリン療法は勧められないことが示唆されました。

アメリカ心臓病学会にて
アメリカ心臓病学会にて

小川久雄先生(左から2人目) 斎藤能彦教授(左から3人目)
岡田定規先生(右から3人目) 森本剛先生(右から2人目)
作間未織先生(1番右)

図1 アスピリンによる心血管疾患の一次予防効果は認められず
グラフ1

また、糖尿病において注目すべき点は、一般の方に比べて癌の発症頻度が高くなることが報告されていることです。興味深いことに、低用量アスピリンは心血管疾患予防のために使用される薬剤ですが、近年は大腸癌などの発癌予防効果についても報告されています。

そこで我々はJPAD2研究での研究期間中に発症した癌についても調査を行ったところ、低用量アスピリン療法の発癌抑制効果は示せませんでしたが、対象を65歳未満に限定すると癌を抑制する可能性を示しました(図2)。癌のハイリスク集団である日本人糖尿病患者において低用量アスピリン療法が有効な選択肢となりうる可能性が示唆され、2018年に糖尿病領域のトップジャーナルである「Diabetes Care」に掲載されました。

図2 65歳未満の糖尿病患者さんにおいて癌の発症が少なくなる可能性を示しました

グラフ2